青海 「シーソー、指きり、糸電話」


「こりゃすごいな。俺たちの本もあるのか」
「ここにいる自分たちの作品は全部あるよ。まだここにはいない人が書いたものも、勿論海外の作品も」
へえ、と犀星は顔を明るくして足を進めた。書架に振られた番号を追って、真っ先に辿り着いたのは詩歌の棚だった。
整然と並べられた背表紙のうちから、懐かしそうな笑みを浮かべて一冊の本を引き出す。手に取ったのは、犀星自身の詩集だ。
「やっぱり俺は詩人なんだな」
「……嫌だった?」
思わず問いが唇から飛び出した。犀星は驚いたように自らの詩集から顔を上げて、朔太郎を明るい杏色の瞳でまじまじと見つめる。
眉がほんの少し、怒るように寄せられていた。
「どうしてだ? 詩人であることが嫌だなんて、そんなはず無いだろう。確かに俺は小説も書いたが……それでも、結局のところ、俺は詩人なんだってわかったんだから」
犀星の答えにも、朔太郎は黙り込んだままだった。それは、諦めではないのだろうか。
転生した新しい魂には、『室生犀星は金沢の詩人である』と刻み込まれていて、彼の抱えていた本は銃へと姿を変えた。
それは、朔太郎にとっては何より嬉しいことだった。犀星が、自らと魂の根元を同じくする詩人として、傍にいてくれる。
犀星が転生して来る前に抱いていた愁いはすべて晴れたのだ。
彼の弟子であった重治や辰雄が、内心どんな思いでいるかはわからないが。
「……朔が何を心配しているかはわからんが」
一つ呆れたような溜息をつくと、犀星は自らの詩集を書架に戻す。
俯く朔太郎の頬を両手で掴み、覗き込むようにして目を合わせた。
顔を上げさせられて不満げな朔太郎に、犀星は柔らかく笑い掛ける。
「俺は書けるものを書いているだけだ。それが詩だったこともあるし、小説だったこともあるけどさ」
温かな手が、朔太郎の頬を包み込む。親指の腹で口の端を持ち上げられて、笑みのような形を作らされる。
自分でやっておきながら犀星がおかしそうに吹き出すので、朔太郎は奇妙に歪められた口元のまま唇を尖らせた。