「あのね、僕は犀が好きなんだと思う」 潜書を終えて食堂で休んでいるときに、不意にそんなことを言われた。 口にしたのは二魂一体と公言している相手――萩原朔太郎だった。 ぼんやりと、どこか遠くに視線を投げながら、朔太郎がティーカップに口をつける。 熱っ……という小さな声を聴きながら、室生犀星は持っていた箸を落としそうになっていた。 「――――は?」 いきなりの予想もしていなかった言葉に返せたのは、自分でもひどく間抜けだと思うほどの一言だった。 犀星が発した一音に、朔太郎の眉根がみるみると寄せられていく。 やや乱暴に置かれたカップが、カチャンッと抗議の音を立てる。 その行動に、自分が選択を誤ったことを悟った。 ようやく思考が動き出したころには、すでに遅かった。 軽く頬を膨らませながら、朔太郎が席を立つ。 「さ、朔!」 「もういいよ。忘れて」 短くそれだけ言って、食堂から出て行ってしまった。 あとに残されたカップを見つめながら、自分の間抜けさを感じ、思わず深いため息が零れた。 彼が紡ぐ言葉の中には、とっさに反応出来ないものが時々ある。それでも、普段ならもう少し早く意味を察することが出来た。――けれど、今回は。 「……あれは反則だろ……」