土鍋ごはん 「Aventure du placard」


さっきまで、僕と犀は喧嘩をしていたのだ。切欠は、今すぐに思い出せないくらい些細なことだったけれど、僕は犀の「朔は俺のことわかってない」の言葉にかちんと来たのがはじまりだった。
犀の言い草を、どうにも腹に据えかねた僕は「分かってわかってないのは犀だよ」と言い返した。そして、言い合いをしているうちに手や足が出てしまった、という顛末。
正直、僕たちは二人で喧嘩をしていたのであって、白秋先生は何一つ関係ない、僕はそう思っている。でもそんなこと、今の師を目の前にしては、とってもじゃないけど言えるはずなかった。
全く笑顔じゃない笑いを浮かべた白秋先生は、目の前にあるまっくらな押入れを指差して、宣告した。 
「君たちは、そこに入って頭を冷やしなさい」
 視線と同じ、いやそれ以上に氷のような白秋先生の言葉が部屋じゅうに響いた。
 そして。 
まるで紗幕が引かれたように目の前が真っ暗になる。 
どんな魔法を使ったのか、白秋先生の言葉を聞いた次の瞬間、僕たちは彼の自室とは違う場所に押し込められていた。
棒立ちになっていたはずなのに、狭く暗い空間で不恰好に背を曲げ膝を曲げ、屈んでいるような座っているような格好に変わっている。髪が擦れるほど低い位置にある天井の向こうから、どん、どんと振動が伝わってきて、僕の上に何かが、いや誰かがいるのかもしれない、と体をこわばらせた。
 その瞬間、よく知った声が頭の上から降ってきた。 
「朔」 
「うう、犀」 
 犀だ。
一瞬喧嘩していたことを忘れて、安心感に視界が滲む。