「…?」 そのうちに、覚えた違和感に朔太郎は首を傾げた。 最初は気のせいかと思ったのだが、彼を乗せている手は明らかに、部屋を出た時よりも重くなっているのだ。 何故だろう、と考えながら、それでも歩みは決して、止めない。 そのうち、犀星も同じ違和感に気付いたのだろう。ずっと前を向いていた顔はこちらを振り向き、そうして確信したらしかった。 「犀、もしかして」 「…ああ」 足を止め、朔太郎はそっと犀星を床に下ろした。 先程までは手の平サイズだった彼は今や、朔太郎の肘から指先までの長さくらいまで大きくなっている。そのまま待つこと数十秒、物凄い速さで、あっという間に犀星の大きさは元に、戻った。 「犀、大丈夫? どこもおかしくない?」 「ああ、大丈…」 言いかけて、けれど言葉はみなまで、続かなかった。 というのも犀星の身体は間髪入れず、更に大きくなり始めたからだ。 決して元に戻ったわけではなく、小さくなった時とは真逆に、ひたすらに大きくなり始めたのだと悟った時にはもう、なす術もなく。 「朔、離れろ!」 ぐわん。響き渡った声音に、朔太郎は身体を震わせ、距離をとる。 今や犀星の身体は廊下の幅いっぱいまで広がって、頭は天井についてしまい、首を竦めるような形で手足をできるだけ、縮こまらせているような状態だった。 このままでは建物を突き破ってしまうかもしれない、と朔太郎は思ったのだけれど、幸運なことに巨大化は止まり、犀星はほとんど身動きがとれないような状態のまま、廊下を塞ぐに留まった。 「犀、犀!」